こんにちは、青山です。
今回は煙が目にしみる (著:石川渓月)のレビューとなります。

「煙が目にしみる 」のあらすじ

小金欣作は、福岡の歓楽街・中洲の街金業者。ヤクザ相手に一歩も引かず地上げで鳴らした時代もあったが、今は長いものには巻かれてしまう負け犬同然の日々だ。ある夜、小金は、一人の少女を救おうとして、地元暴力団幹部を敵に回してしまう。勝ち目のない敵との戦いに挑む小金と仲間の運命は!?日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した、痛快<中洲ハードボイルド>!(裏表紙より)

よ、読みやすい!

前回ご紹介した“ビンゴ”は、読み切るまでに五か月かかりましたが、本作は一日で読み終わりました。

読みやすさが雲泥の差ですね(笑)。
本作も五百ページ近くあったのにも関わらず、です。

もうね、乾いた大地に水がしみ込むがごとく、文章がスラスラと頭に入ってきますよ。

難しい漢字も使われていなければ、難しい表現もない。
これは著者の語彙力が低いというわけではありません。
むしろ語彙力が高いでしょう。
それを表に出していないだけですね。
これが著者の偉大なところです。

言葉をたくさん知っている人間は、どうしても自分の知識量を披露したいと考えるもので、ほとんどの人が見たことも聞いたこともない漢字や表現を多用してしまう傾向にあります。

それはまあ、知識量を披露することによって“マウンティング”(注1)したいという欲求からでしょう。

加えて、せっかくの知識を生かさないのはもったいないという気持ちもありますしね。

なので、そうした欲求やらをグッと堪えて、多くの人が分かりやすい漢字や表現に単純化するのは並大抵のことではありません。

しかし、本作の著者は見事やり遂げました。
拍手を送りましょう。
パチパチパチパチ!

妙手の連続

ただし、難しい漢字や表現がないというだけでは、小学生の作文と変わらないでしょう。
ですが本作は、技巧と構成力が小学生のそれとは比較になりません。

例えば、P.12の最後の行。
≪何とも不思議な○○○だった≫

読者は例外なく、この一言で衝撃を受けることでしょう。
脳にズガンときますよ。
(その理由は言えませんがね)

そして、この一言を皮切りに、小説の内部へ心を引き込まれます。
何しろそこからはもう、ジェットコースターのような展開が待ち構えていますからね。

山と谷のバランス、緩急の作り方、二転三転する物語、最後に判明するタイトルの意味、全てが美しい!

将棋に“妙手”という言葉があります。
“他人に予想もできない、うまい手”という意味ですが、本作はまさに妙手の連続!

一ミリも、いや、一ミクロンも飽きることがなく読み切れます。

博多弁が嫌いだと・・・

ただ、欠点があるとすれば、本作の舞台が福岡なので、登場人物のセリフの多くが博多弁だということです。

私は五木寛之さんの“青春の門”という小説が好きで、その時から博多弁も勉強していたので気になりませんでしたが、博多弁に免疫のない人が読んだら拒絶反応が起きるかもしれません。

後は、著者の読点の打ち方が独特だってことですね。
例えば、P.208の文章。

≪翔一が、今度は、はっきりわかる動きで、夢子を肘でつついた≫

これだけ短い文章なのに、読点が三つも打たれています。
私なら次のようにしますね。

≪翔一が、先ほどよりも強く夢子を肘でつついた≫

こっちの方がスマートじゃないでしょうか?
しかし著者は、“はっきりわかる動きで”という部分を強調したかったのでしょうから、それでいいと言えばいいですけどね。

読点の打ち方には著者の個性が表れますから、それが自分の拍子と合わないからといって否定することは、取りも直さず、著者の個性を否定することになるでしょう。

みんなちがって、みんないい(by 金子みすゞ)

注1:自分が優位であることを示そうとすること。

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