こんにちは、青山です。
今回はビンゴ (著:西村健)のレビューとなります。

「ビンゴ 」のあらすじ

新宿ゴールデン街。酒場のマスターでありながら事件屋稼業を営む小田健に寄せられた依頼。勝手知ったる路地裏、何でもない調査のはずが・・・。傭兵、殺し屋、政治家に土建屋、美女をも巻き込み夜の街・新宿から丹沢山系へ。吼える銃、ほとばしる暴力、疾走するストーリー。文句無し、大興奮ページターナー!(裏表紙より)

読む拷問だ

本作は第十五回日本冒険小説協会大賞(特別部門大賞)を受賞した作品です。(ただ、本書のどこにも受賞したと表記されていないので、もしかすると受賞したという情報が間違っている可能性がありますね…ウィキペディアで拝見した情報ですからね)

あ~、え~と、何から話せばいいのやら。
そうですね、まずは裏表紙の文章を書いた奴に文句を言いましょう。
何が“ページターナー”(注1)だ!

とんでもなく読みづらいじゃないか!
指がページをめくることを拒否し続けましたよ。
あまりにも続きを読みたくなさ過ぎてね。
もうね、苦痛!
差し詰め、読む拷問!

「まーた青山さんが管を巻いてるよ。どうせ著者の才能を妬んでネガティブキャンペーンをしようっていう魂胆なんだろう?」

そう考える方もおられるかもしれません。
いいでしょう。
それなら、証拠を提示しようじゃありませんか。

下記に本作の文章を引用します。

1.≪失敗した経験は掃いて馬に食わす程ある≫
2.≪ガルガンチュワのガキが大暴れした跡みてぇな状態≫
3.≪エレベーターの中は湘南中のイチゴアイスを溶かしたような血の海だった≫
4.≪ゾル状液体のような人混みがブラウン運動状にうごめいている≫
5.≪これからは俺のことをゴールデン街のジャン・バルジャンと呼んでくれ≫
6.≪4分間も呼び出し音を鳴らし続けて気が付かないのはドルリー・レーンくらいのものだ≫
7.≪ロバート・デヴィの頬より凹凸の激しい未舗装路を下ってアーチ橋を渡った≫

さて、この中に一つでも、しっかりとイメージできる文章がありますか?
しっくりくる文章がありますか?
私は、4だけは面白い表現だなと思いましたが、それ以外についてはイメージできませんでしたし、納得もできませんでした。

1については、“掃いて捨てるほど”という月並みな表現を避けた結果、ひねり過ぎて訳が分からない文章になってしまっていますね。

2については、“ガルガンチュワ”というのが巨人だということを知らなければイメージできないでしょう。

3については、湘南にどれほどのイチゴアイスがあるのかを把握していないとイメージできませんね。

4については、“ゾル”が液体だということと“ブラウン運動”が不規則に動くことだと知らなければイメージできないでしょう。

5については、“ジャン・バルジャン”が映画:レ・ミゼラブルの主人公であり、かつ、レ・ミゼラブルを観た人にしか通じないでしょう。

6については、“ドルリー・レーン”がエラリー・クイーンの小説に登場する架空の探偵だってことを知らなきゃ何のことやら分からない。

7については、“ロバート・デヴィ”という俳優の顔がパッと思い浮かぶ人にしかイメージできないでしょう。

正直、これら全ての直喩や隠喩を理解できる人って相当に少ないですよ。
当然、文章を読んでパッとイメージできないから、そこで手が止まってしまうんです。
本作の文章にはこういった、我々の手を止めるストッパーだらけなんですよ。

そんな本、読みたいと思いますか?
ただでさえ現代人は“アテンション・スパン”(注2)が短くなっているっていうのに、こんな本を読める訳がない。
(もっとも、本作が上梓されたのは二十年以上も前なので、その当時なら、これくらいが普通だったのかもしれませんが・・・)

まあ、私は読み切りましたけれどね。
五か月以上かかりましたが、なんとか頑張りましたよ。
何度も挫折しそうになりました。

しかし、その度に「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」って、エヴァンゲリオンの碇シンジ君のように唱えて克己しましたよ。

不退転の強い意志を持って、私はやり遂げました。
自分で自分を褒めてあげたいです。

登場人物が多すぎる

そうそう、登場人物が多すぎるという点も減点対象ですね。

小説にはある程度のセオリー(定石)があるんですよ。
掌編小説(短編よりページ数が少ない小説)だったら登場人物は二人まで。
短編小説だったら二、三人。
中編小説なら四、五人。
長編小説なら六、七人といった具合です。

本作は五百ページを超える長編小説なので、七人までは登場させてOKです。
しかし、本作はセオリーを逸脱しすぎています。
主人公の小田健、ヒロインの呉、刑事の土器手、殺し屋のワディ、マンション大家の岩間、エースという店のママ・金田、爆弾の寺崎、マヌケの丸毛、我王、岩佐、三上、大川、大野(我王からはもう説明が面倒になりました)。

そうだ、犬のケンペーを忘れてはいけませんね。
本作を語るうえで外せない重要なキャラだけで十三人と一匹もいるんですよ。
サブキャラまで合わせたら、この倍以上です。

これは登場させすぎ!

「こいつ誰だっけ?」ってなって、内容が頭に入ってこないんですよ。
海外の小説っぽいですね。
登場人物がアホほど多いですからね、海外の小説って。
しかし、ここは日本ですよ。
ジャパン、いや、ジャッペ~ンですよ(お前は何を言っているんだ?)。

セオリー通りにしていただかないと困りますよ。
何故セオリーというものがあるのか、その意味を考えて下さい。
(まあ、セオリー通りだと逆に退屈な作品になってしまう可能性が高いんですけどね)

本作はまるで中本の蒙古タンメンだ

さて、だいぶ酷評してきましたが、悪い点ばかりでもないんですよ。
いや、むしろ、とても勉強になりました。
著者の知識量には驚かされましたよ。

そう、苦痛しかない作品だったら私が最後まで読み切れるはずがないんです。
本作には、辛さを上回る面白さがあります。

そうですね、例えるなら中本の蒙古タンメンですね。
蒙古タンメンは、ただ辛いだけじゃなく、その奥に旨味があるでしょう?
本作もそんな感じです。

快と不快、相反する感情を同時に味わえる作品なんて、そうそうお目にかかれないですよ。

注1:早く続きが読みたくなるような面白い本。
注2:集中力の持続時間。

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