こんにちは、青山です。
今回は空手道ビジネスマンクラス練馬支部(著:夢枕獏)のレビューとなります。
「空手道ビジネスマンクラス練馬支部」のあらすじ
ヌエ企画という「よろづや」のような会社で名ばかりの専務として勤める木原正秋は、ある日、チンピラ風の男達に囲まれた一人の男が、そいつらを空手で倒すさまを目撃した。その際、チンピラ風の男達の内の一人に顔を覚えられ、後日、因縁をつけられて痛めつけられる。土下座までさせられたところを会社の同僚に目撃され、恥ずかしさと悔しさと情けなさに締めつけられる。そんな時、飲み屋のカウンターで空手道場のチラシを発見し……
長い”おことわり”
ついに来ましたよ!
私が尊敬する夢枕獏の小説を紹介できる時が!
でも、できれば紹介したくなかったっていうのが本音です。
何故って?
私は、本当に面白いと思った小説は自分一人で楽しみたい派だからですよ…
「この作品のここが面白かった」とか「この作品のここはこうだった方がよかったのに」とか、そういう一喜一憂や悲喜こもごもを他人と照らし合わせたくないんですよね。
だって、ものすごく気を遣いますよ。
誰かが良いといった部分を別の誰かが悪いって言うわけですよね?
そこで争いが起きるんですよ。
その時、その小説を紹介した自分は第三者・傍観者・オーディエンスでいることができず、戦火に巻き込まれるんですよ。
勘弁してください…
正直、どうでもいいじゃないですか。
他人がどう感じようが、自分が良いと思えば良いし、悪いと思えば悪い、それでいいでしょう?
なのにどうして「私が良いと感じているのに悪いと感じるお前はおかしい!」ってなって、相手も売り言葉に買い言葉で「いいや、おかしいのはお前の方だ!」ってなって、最終的に大勢を巻き込んで盛大な答え合わせを始めるんですよね。
答えなんてないのに…不毛です。
だから、”誰か”の枠組みの中に私を引きずり込まないでくださいよ。
と、長い“おことわり”が済んだところで作品の内容に触れていきましょう。
この作品は私たちへのエール
どこにでもいる中年男性が屈辱をきっかけに力を求め、その過程で心身ともに成長し、というより、活力を取り戻していくというストーリー。
少年漫画ではありがちな内容ですが、中年を主人公にしたところが秀逸ですね。
人間、やる気さえあれば、何歳からだってチャレンジできるということを示してくれています。
つまり、この作品は著者の我々に対するエールなんですよ。
格闘シーンは言うまでもなく素晴らしく、著者の面目躍如ですね。著者の代表作である「餓狼伝」のようなぶっ飛んでいる格闘シーンよりも、私はこういう現実的なのが好きです。
主人公の木原は特別に魅力のある人物ではありません。
奥さんがいるのに別の女にも気持ちが傾くような男です。
でも、そんなもんか、とは思いますけどね。著者は人間のドロッとした暗部を描くことによって、その人物のディテールを強化するという手法が得意なのでしょう。
でも、私は主人公よりも、その主人公に因縁をつけたチンピラの方が好きですね。
この人にも真っ当な人生があったはずなんです。
それが、蟻の一穴というか、些細なことが原因で狂ってしまう。
夢を追いかける主人公と、夢を追えなくなったチンピラ。
まさに光と影ですね。
ようするに、この作品には主人公が二人いるってことです。
そう考えて読んでみるのも面白いと思いますよ。