こんにちは、青山です。
今回は苦役列車(著:西村賢太)のレビューとなります。
「苦役列車」のあらすじ
北町貫多、十九歳。
生来の素行の悪さと、アルファベットすら完全に覚えられない頭の悪さが災いし、中学を卒業してからは高校へ行かず、日雇いの港湾人足仕事で生計を立てる自堕落な日々を送っていた。
見栄っ張りなのに骨惜しみで、器が小さい上に感情の沸点も低い、救いようもない、気持ちの悪い“粘稠性”(注1)をともなった男の人生を苦役列車と表現した傑作。
登場人物のリアリティがこの作品の評価ポイント
これは第百四十四回芥川賞を受賞した作品です。
私もいずれ芥川賞を獲りたいなぁと思っているので、参考のために読みました。
他の芥川賞受賞作品を読んでいても感じるのですが、やたらと難しい漢字や表現を多用していますね。
そこでつまづいて、本の内容がスッと頭に入ってこないんですよ。
私も相当、勉強しているのにこれなんですから、小説家を目指していない一般の方が読むには厳しいものがありますね。
もっとも、芥川賞というブランド価値だけで購入する方はいますから、内容なんてどうでもいいのかもしれませんが……
閑話休題。
物語は主人公の北町貫多の一人称で語られます。
で、この作品の主人公は正直、屑です。
いや、糞です。
いやいや、カスですね。
もう、そういう表現しか思い浮かばないんですよ。
本当にダメな奴です。
何度、殺したくなったか分かりません(マジで)。
現実にこんな男が存在していて、同じ職場にでもいようものなら、私はすぐに退職しますね。
それぐらいヤバい奴です。
以下にそのヤバさを挙げてみます。
①母親から現金十万を奪い、一人暮らしを始める。
②日当の五千五百円を、次にその会社へ行くための電車賃だけ残して使い切る。
③家賃を滞納した挙句、踏み倒して逃亡する。
④ソープへ足を運ぶし、酒も飲む(おそらく十五歳か、それ以前から)。
⑤友人から金を借り、踏み倒す。
⑥仲の良かった仕事仲間を些細な理由から一方的に拒絶する(かなり幼稚)。
⑦十万円も奪っておきながら、さらに母親からむしり取る。
これは氷山の一角です。
この男の醜悪さは数え上げたらキリがありません。
信じられませんよ。
「お前のような奴はクズだ、生きてちゃいけないんだ!!!」(カミーユ風に)って叫びたくなります。
でもまあ、彼がこうなってしまった悲しい理由もあるんですけどね。
説明しませんがね。
だって、どんな理由があろうと、そこで人生を諦めて腐ったら終わりなんですよ。
同情はできません。
ああ、何だか自分自身を非難しているみたいな気持ちになってきました…
この主人公のことがこんなに嫌いなのは、昔の自分を北町貫多に投影して自己嫌悪しているからかもしれませんね。
私もひどい人間でしたから(今もそれほどいい人間ではないけれど)。
と、だいぶ酷評してきましたが、実はこれが、この作品の素晴らしさなんですね。
主人公にリアリティがあるんですよ!
小説っていうのは、ノンフィクション以外は全てフィクション、作り物なんです。
読み手はそれがわかっていて、それでもなお、その作品の中にあるリアリティに心を動かされるものなんです。
北町貫多はしっかりと息づいているんですよ。
だからこそ私の裡に憤怒や憎悪といった感情を湧出させられる存在なんです。
良くも悪くも、その作品の巧拙を決定するのは、登場人物の現実味だと思います。
その点では、この作品はまさに傑作と呼べるでしょう。
注1:ねんちゅうせい、と読む。粘り気や密度の濃い性質。