こんにちは、青山です。
今回はさよならドビュッシー(著:中山七里)のレビューとなります。
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「さよならドビュッシー」のあらすじ
資産家に生まれ、ピアノの才能にも恵まれた香月遥、十六歳。ある日、祖父と従姉妹とともに火事に遭い、一人だけ生き残るが、全身大やけどを負ってしまう。満足にピアノを弾くことができない体になってしまったが、それでも応援してくれた人たちのためにピアニストを目指す彼女。岬洋介という天才ピアニストがコーチになってくれたため、ピアノの腕は順調に回復していくのだが、それと並行して、不吉な出来事が彼女の身にふりかかる。何者かが遺産目当てに彼女を葬ろうとしているのだろうか?その謎を天才ピアニスト、岬洋介が解き明かした時、彼女は終わり、そして始まる。
音楽表現だけでなくミステリーも圧巻
第八回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した作品です。
いやはや、実に素晴らしい作品でした。
裏表紙に書いてある通り、ピアニストも絶賛するほどの音楽描写は圧巻です。
私は門外漢なので、十六分音符とかアルペジオとかトリルとか言われてもピンとこないんですが、“何かすごいものを読んでいる”という感覚がハッキリと自覚できます。
思い起こせば第一回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作、『四日間の奇蹟』も音楽ミステリーでしたが、率直に申し上げて、こちらの作品のほうが勝っています。
驚嘆すべきは、これが単なる“青春音楽ストーリーではない”という点です。
巧緻な音楽描写だけでも満腹感を味わえるのに、さらにミステリーも楽しめるのです。
一粒で二度おいしいですね。
ただし、なめてはいけません。
音楽に力を入れてミステリーはお座なりだと思っているようなら痛い目に遭いますよ。
最後の二十ページほどを使って謎解きが展開されるのですが、もう本当に度肝を抜かれます。
「一体いつから―――鏡花水月を遣っていないと錯覚していた?」(by 藍染惣右介)ってセリフを読んだ時くらいの衝撃でした。
そこでようやく気付きました。
ミステリーはデザートではなく、メインディッシュだったということを。
謎の解答を読んだ時に感じた、全身の血流が止まるような感覚は、アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」や「オリエント急行殺人事件」を読んだ時と同じものでしたね。
欠点は確かにありますよ。
著者の年齢が高いせいか、文章が非常に硬いです。
高校生がこんなセリフを言うのか?
と思う箇所がいくつもありました。
ひらがなで書けばいいのに、と思うところもありました。
碌(ろく)に、綽名(あだな)、虐め(いじめ)、蹲った(うずくまった)、惧れた(おそれた)など、私でも読むのに苦労する部分が多々ありました。
著者に語彙力がありすぎるので、普通の人はついていけないと思います。
しかし、そんな欠点なんて霞んでしまうほど、この作品の出来はいいですよ。
最後に、私が作中で最も気に入った文章を引用させてもらいます。
全ての傷付いた人を癒したい、全ての罪びとを赦(ゆる)したい―――僕の胸にはそう届いた。きっと審査員や聴衆たちも同じだろう
P.409より
そして、私たち読者も……。
コンクールで魅せた演奏は、ドビュッシーになぞらえた彼女の祈念そのものだったんですよ。
でも、これはきっと他でもない、彼女自身が欲していることでしょうね。
自分がそうしてほしいけど満たされないから、他人にそうすることでわかってもらおうとしているのでしょう。