こんにちは、青山です。
今回はベンハムの独楽(著:小島達矢)のレビューとなります。
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「ベンハムの独楽」のあらすじ
この独楽は、白と黒のみで模様が描かれているにもかかわらず、回すと弧状の薄い色が見えてくる。しかもそれは赤や黄色や青など、人によって異なって見えるという。ここに収録されている九つの物語は、ミステリー、ホラー、SF、そして青春小説など、多種多様で、読む人によって別の世界が見えてくる。まるでベンハムの独楽のように……。二十二歳で第五回新潮エンターテインメント大賞を受賞した衝撃のデビュー作、ついに文庫化!(裏表紙より)
シャポー!!
前回は漫画(エンジェル伝説)のレビューをしましたが、一旦、小説のレビューに戻します。
タイトルと裏表紙の文句に惹かれて購入しましたが、なかなかの良作でした。
しかし、驚きですよ。
この作品の著者は二十二歳の若者なんです。
私も小説を書いています。
初めて小説を書いたのが大学四年生の時だったから、ちょうど著者と同じくらいの年齢ですね。
私がようやくスタートラインに立った時に、この著者はもうゴールしているという……。
なんとも複雑な気持ちになりました。
でも、素直に認めましょう、著者の才能を。
私がフランス人だったら間違いなく、シャポ―(脱帽だ)と叫んでいることでしょう。
必ず刺さる作品がある
あらすじにもあるように、この作品には九つの物語が収録されています。
ジャンルもバラバラで、読んでいて飽きません。
きっと、あなたのスイートスポットに当たる作品が見つかることでしょう。
では、一つずつ紹介していきます。
1.アニュージュアル・ジェミニ
直訳すると、“異常な双子”ですかね?
私は英語が苦手なので、間違っていたらゴメンなさい。
これはホラーかな?
ミステリーとしても読めますが、私にはホラーに感じられました。
主人公の少女・早紀は、瞬きをすると姉の真紀と精神が入れ替わるという特殊な能力を持っていて……。
あまり多くは語れませんが、小説家の阿刀田高さんが得意としている分野の物語、とだけ言っておきましょう。
最後の数ページで、あっと言わせられました。
これは気に入りましたね。
2.スモール・プレシェンス
直訳すると、“小さな予知”ですかね?
五分先の未来が見えるようになったと言う長谷川のことを、兵藤は全く信じていませんでしたが、彼の予知がどんどん的中していき……。
一つ目と同じような特殊能力系の物語か、と思っていたら、最後にどんでん返しが待っていました。
こういう物語も嫌いじゃないですね。
3.チョコレートチップ・シースター
このタイトルは、ヒトデの名前ですね。
黄色に茶色の斑点のある種類のやつです。
どうしてこんなタイトルにしたのかは、この物語を読めばわかります。
主人公の美央が雨をキッカケとして思い出す幼い頃の記憶は、あなたの心を温かく、またはキュッと締めつけてくれることでしょう。
4.ストロベリー・ドリームズ
主人公のまいちゃんは、友達のみいちゃんがくれるイチゴのキャンディが好きでした。しかし最近、みいちゃんはキャンディをくれなくなりました。そればかりか、ポケットから手を出さなくなり、お弁当はトイレに行って食べるようになり、ついには入院することに……。
舌ったらずな一人称で語られているので、微笑ましい気持ちで読み進めていると、徐々に暗雲が垂れ込めていくように雰囲気が不穏になっていきます。
そして最後の数ページで絶句します。
これは人によって解釈が異なると思いますが、主人公は、人間じゃ、ない、のか?
5.ザ・マリッジ・オヴ・ピエレット
このタイトルはピカソの絵画である『ピエレットの婚礼』のことですね。
ピカソの親友であるカルロス・カサヘマスの死による深い絶望感が作品の主題になっているそうです。
たしかに、この絵画に使用されている色は黒と青が多く、見ていると憂鬱になり、息が詰まりそうになります。
最初に読んだ時は絵の内容なんて関係ないと思っていましたが、そんなことはありませんでした。
ピカソの絵画展へ行って実物を拝見してからこの物語を読んだ方が、何倍も楽しめると思います。
コンビニに突然、目出し帽を被った男が押し入り、五人の人質をとって立てこもるのですが……。
少ないページ数で、よくここまでしっかりとストーリーを組み立てられたなと感心した物語でした。
6.スペース・アクアリウム
“宇宙の水槽”ですかね?
この物語はSFです。これについて一つだけ言えることがあるとすれば、私たちのいるこの世界もこうだったら嫌だな、ってことくらいです。
7.ピーチ・フレーバー
主人公の琢磨は、彼女である絵美の作った料理に全く手をつけない。
何故なら、文字を食べて生きていけるようになったからだ。
……は?
何言ってんの?
皆さんもそう思いましたよね。
私もそうでした。
読み進めて行くと、ちゃんと理由がわかります。
この物語については特筆すべきことはありませんね。
私の心に何も残りませんでした。
8.コットン・キャンディ
“綿あめ”ですね。
牧野、森内、水原の、男子二人、女子一人が織りなす青春物語。
この作品の中で最も長いページ数を割いていることから、著者の力の入れようが窺えますね。
青春とは何か?
この物語は、私たちへの問いかけだと感じられました。
著者は作中で主人公の牧野にこんなことを言わせています。
『口の中で、甘味だけを残して瞬時に溶けていく。青春という単語をまた思い浮かべた』
青春とは“綿あめのようなものかもしれない”と言っているわけですね。
断定してはいないです。
『ふわふわとした塊が、すっと口の中で消える甘さは、やっぱりなにかの象徴に思えた』
最後の方でそう言っていますからね。
人によって色々な青春があると思います。
ただし、時間が有限であるということだけは万人に共通しています。
皆さん、どうか悔いのない青春を謳歌してくださいね。
9.クレイジー・タクシー
タクシーがハイジャック(タクシーでハイジャックっていうのか?)されるというサスペンス。これもどんでん返し系の物語ですね。
主人公の“私”(女性)は東京から実家の新潟まで帰省するためにタクシーを利用するのですが……。
いや、実に後味の良い物語でした。
最後の数行で、この女性の正体が判明するという手法は斬新でしたね。(私が知らないだけかもしれませんが)
以上、九つの物語について簡単に紹介させていただきました。
まあ、著者は若いですからね。
言い回しや表現力についてはイマイチでした。
犬みたいに様々な本をヨダレたらしながら読み漁っている私にはそんな風に感じられましたが、一般的な読者諸兄姉にとっては読みやすい作品だと思います。