こんにちは、青山です。
今回は血塗られた神話(著:新堂冬樹)のレビューとなります。
「血塗られた神話」のあらすじ
街金融会社、野田商事の経営者・野田秋人は、債務者への過酷な取り立てから「悪魔」と呼ばれていた。
しかし、彼の取り立てが原因で自殺者が出てしまう。五年後のある日、野田のもとに全身を切り刻まれた新規客の肉片が届いた。
これは客を自殺に追い込んだ彼への報復なのだろうか?調査を開始した野田は、その過程で意外な人物に行き当たる。
巧みな作品、デビュー作という衝撃
私事で申し訳ないのですが、いま読み返してみてわかったことがあります。
この作品、第七回メフィスト賞受賞作だったんですね。
まったく気付きませんでした( ´∀` )
表紙と背表紙と裏表紙は確認しますが、見返しと解説は基本スルーしていますから…
でも、受賞作だと言われると納得ですよ。
これが著者のデビュー作だってことが信じられないくらい巧みです。
どのあたりが巧みかというと、癖がないところですね。
例えば、同じくメフィスト賞を受賞したドッペルゲンガー宮≪あかずの扉≫研究会 流氷館へを引き合いに出してみましょう。
この作品は謎が多すぎてくどいんですよね。
満腹なのにまだ食べろというのか?
フォアグラですか?
俺をフォアグラにしたいんですか?
と、読んでいて思わず顔をしかめてしまいましたが、血塗られた神話にはそういったくどさがない。
そして腹十分目、つまり、もうこれ以上入らないよっていうくらいで料理がなくなります。
舌触りも喉ごしもあっさりしています。
その割に味は淡泊ではなく、濃いめなんですよ。
ちょうどええ(二丁拳銃かよ)
前置きが長くなりましたが、内容に触れていきましょう。
心を入れ替えた主人公が好きになった
物語は野田秋人の一人称で進んでいきます。
彼は「悪魔」と呼ばれるほど恐ろしい取り立てをしていたわけですが、客が自殺したことによって自分の行いを見つめ直し、心を入れ替えました。客を生かす人間になったんです。
間接的にせよ、人を死なせてしまったわけですから、野田は自分が殺人者であることを理解していたのですね。だから改心した。
その点で、私はこの主人公のことが好きになりました。
これは私の自論ですが、罪を犯すことが“悪”ではないんです。
その過ちから何も学習せず、反省することもなく、同じことを繰り返すことこそが“悪”なんですよ。
ですから、過去の自分に向き合って考えを改めた野田は“悪”ではないんです。
そして、改心した人間は許されるべきだと思うんです。
改心する過程で十分に傷ついているから、罰を受けているからです。
この考え、誰もわかってくれないんですがね。
この作品、著者が金融会社に勤務していたというだけあって金融に関する情報には目からうろこが落ちますね。
作品世界のバックボーンがしっかりしているから、登場人物たちの輪郭がくっきりと浮かび上がってくるのです。
まあ、このページ数の作品にしては登場人物の数が多すぎるので、あの人物のことは詳し過ぎってくらい書かれているのに、この人物は薄っぺらいなぁと感じたりはしましたが、そういう細かい欠点は真相に辿り着いたらどうでもよくなりますよ。